越境EC市場の拡大により、日本企業にとっては成長の好機が広がっています。一方で、文化や法律の違いによる失敗も後を絶たず、現地ニーズの誤認や法規制への対応不足が原因で大きな損失を被るケースも見受けられます。
本記事では、そうした越境ECにおける代表的な失敗事例を5つ取り上げ、それぞれの背景や得られる教訓を詳しく解説します。失敗を未然に防ぐための視点を得ることで、戦略の見直しやリスク回避の一助としてお役立てください。
越境ECにおけるよくある失敗事例5選

越境ECの成功には、国や地域ごとの文化・法律・消費者心理の違いを正しく理解することが欠かせません。しかし、その前提を見落とすことで、予想外のトラブルや損失を招いてしまう企業も少なくありません。ここでは、実際に起きた代表的な失敗事例を5つ紹介し、具体的な内容を詳しく見ていきます。
文化的なミスマッチによる失敗事例
日本企業が海外市場に進出する際に直面しやすい課題のひとつが、文化的なミスマッチです。たとえば、ある日本のアパレルブランドは中東市場で宗教的価値観への配慮を欠いたデザインを展開し、現地消費者からの強い反発を受けてブランドイメージを著しく損なう結果となりました。こうした問題は、現地の文化や宗教、慣習に対する理解不足が引き金となるケースが多く見られます。
越境ECにおいても、生活様式やタブーを無視した商品やプロモーションは、大きなリスクにつながります。文化的背景への敬意を持ち、あらかじめ丁寧な市場調査を重ねることが欠かせません。また、現地のパートナー企業やコンサルタントと連携を取ることで、こうしたミスマッチを未然に防ぐ体制を整えることができます。
物流体制の不備による失敗事例
越境ECにおいては、現地の配送体制や保管環境が整っていない場合、大きなトラブルに発展する恐れがあります。たとえば、ある日本の食品メーカーが熱帯地域に商品を出荷した際、現地で十分な冷蔵設備を確保できず、商品の品質が劣化してしまいました。これによりクレームが相次ぎ、企業は深刻な損失を被ることとなりました。
こうした問題は、温度管理を必要とする商品や賞味期限が短い商品で特に発生しやすい傾向にあります。出荷準備だけでなく、現地の気候条件や輸送ルート、保存環境まで踏まえた対応が求められます。物流パートナーの選定や梱包方法の見直しも重要な要素です。
物流は越境ECの信頼性を支える土台です。市場進出の初期段階から、万全な体制づくりに取り組むことが不可欠といえるでしょう。
現地規制・法令違反による失敗事例
越境ECにおいては、現地の法規制に対する理解が不十分だと、深刻なトラブルを招くおそれがあります。たとえば、ある日本の化粧品メーカーは中国向けに製品を販売した際、成分表示が現地基準に合致しておらず販売停止と大規模な商品回収を余儀なくされました。このような問題は、販売国の規制や許認可制度を正しく把握せずに出品・出荷を行ったことが原因です。
特に化粧品や健康食品といった商品は、国ごとに厳格な基準が設けられており、違反が発覚すればブランドイメージの失墜や大きな財務的損失につながりかねません。こうしたリスクを未然に防ぐためにも、事前の法令確認を徹底し必要に応じて現地専門家の協力を得るなど法的なリスク管理体制を整えることが重要です。
マーケティング戦略の失敗事例
越境ECでは、日本国内で成果を上げたマーケティング施策をそのまま海外市場に適用し、思うような結果が得られない場合があります。たとえば、ある日本のゲームメーカーが欧米市場に向けて新作を展開した際、現地ユーザーの嗜好を十分に調査しなかったため、訴求ポイントがずれて売上が伸び悩みました。
このような失敗は、地域ごとの文化や消費者心理の違いを軽視したことに起因しています。国や地域によって主流のSNSや影響力のあるインフルエンサーが異なるため、現地文化やトレンドを的確に把握し、それに合わせて戦略をローカライズする姿勢が、成功への鍵となるでしょう。
価格設定ミスによる失敗事例
越境ECでは、販売先の物価水準や競合製品との価格差を無視し、日本と同じ価格設定で展開すると失敗につながる恐れがあります。たとえば、ある日本の家電メーカーは欧米市場に新製品を投入した際、日本国内と同じ価格帯を適用した結果、現地の競合製品より割高と見なされ、販売が伸び悩みました。
このようなケースは、価格に敏感な市場で特に顕著です。越境ECにおいては、「高品質だから高価格が当然」という論理が通用しない場面も多くあります。現地の購買力や流通コスト、さらには為替変動によるリスクなども視野に入れた、柔軟で戦略的な価格設定が求められます。適正な価格を判断するには、現地の市場調査を実施したうえで、価格に対する消費者の反応を分析することが重要です。
ジャンル別に見る越境ECの失敗事例

越境ECでは、商材のジャンルによって直面する課題や失敗のパターンが大きく異なります。たとえば、化粧品、食品、家電など、それぞれに特有の規制や消費者ニーズがあります。ここではジャンルごとの具体的な失敗事例を取り上げ、自社と同じ業種における落とし穴を知ることで、今後のリスク対策に役立てていただければと思います。
化粧品メーカーの失敗事例
中国市場への進出を試みた日本の化粧品メーカーが、現地の法規制への対応を誤り、大きな損失を被った事例があります。問題となったのは、製品に記載されていた成分表示が中国の安全基準に適合しておらず、販売停止と大規模な商品回収に至った点でした。さらに、依頼していた現地専門家による確認作業に不備があり、企業側は問題の発覚まで状況を正確に把握できていなかったのです。
このような事態は、特に化粧品や健康食品など規制が厳しい商材において、確認体制の脆弱さが重大なリスクとなることを示しています。越境ECにおいては、現地の法令を常に最新の情報で把握し、複数の専門家によるチェック体制を構築することが、ブランドへの信頼を損なわず、予期せぬ損失を防ぐ鍵となります。
食品メーカーの失敗例事例
ある日本の食品メーカーは、アメリカ市場向けに商品を販売する際、現地の食品安全基準に適合しないパッケージ表示を採用してしまいました。基準に沿って設計したつもりでしたが、一部の表記に誤解を招く要素が含まれていたことが後に判明し、消費者からの指摘を受けて販売を中止する事態に至りました。その結果、大量の在庫回収と返金対応に追われることとなり、企業にとって大きな損失となりました。
この失敗は、海外市場では企業側の「意図」と現地消費者の「解釈」にずれが生じることが、重大なリスクにつながることを物語っています。とくに食品分野では、成分表示やアレルゲン情報などに関する法令遵守が非常に厳しく、少しの誤認もブランド信頼の低下や法的トラブルを招く可能性があります。
越境ECにおいては、現地規制を正確に把握したうえで、複数の専門家による表示内容の確認体制を構築することが、リスクを最小限に抑え、信頼性のあるブランド運営を継続するために欠かせません。
家電メーカーの失敗例事例
ある日本の家電メーカーは、インド市場向けに製品を展開する際、現地の電圧規格を正しく把握していませんでした。製造段階で仕様を誤ったまま出荷したことで、一部製品が正常に作動せず、発煙や火災の恐れが指摘される事態となりました。
企業は販売を即座に中止し、大規模な回収と対応に追われることとなります。このような問題は、ターゲット市場の技術仕様や安全基準への理解が不十分であったことに起因します。特に家電製品では、現地規格への適合が不可欠であり、製造前に基準の確認を徹底する姿勢が求められます。
さらに、出荷前には複数回にわたる品質チェックを実施しなければなりません。越境ECにおいても、輸出先の使用環境を踏まえた設計と管理体制の構築がリスクを未然に防ぐための重要な対策となります。
失敗を防ぐために知っておきたい越境ECの対策ポイント

越境ECでの成功には、失敗事例から学び、事前にリスクを回避する戦略が不可欠です。各国の文化や法規制、消費者の購買行動は大きく異なり、それらを見誤ると大きな損失につながります。ここでは、失敗を未然に防ぐために押さえておくべき具体的な対策を紹介します。現地調査・マーケティング・物流・法規制対応といった実践的なポイントを順に見ていきましょう。
徹底した現地市場調査
越境ECを成功に導くには、現地市場の徹底的な調査が不可欠です。たとえ日本国内で人気の商品であっても、現地の消費者ニーズや文化、気候、生活スタイルに合っていなければ、売上にはつながりません。実際には「需要があると見込んで出店したが、まったく反応が得られなかった」といった事例も見受けられます。
どのような商品が好まれ、どの価格帯に興味が集まり、消費者がどの媒体を通じて情報を得ているのか。こうした情報を事前に把握することは、販売戦略の成否を左右する大きな要因です。現地ユーザーへのヒアリングやテスト販売、競合企業の動向分析などを通じて、定量的なデータと定性的な知見の両面から理解を深めていく必要があります。
机上の予測だけに頼らず、実態に即した戦略を構築すること。それこそが、越境ECで成果を上げるための揺るぎない土台となります。
現地に合わせたマーケティング戦略の立案
越境ECでは、日本で成果を上げたマーケティング手法が、そのまま海外市場で通用するとは限りません。国や地域ごとに流行しているSNS、消費者の購買動機、広告の響き方には大きな違いがあるためです。実際、日本国内のアプローチをそのまま用いた結果、現地の消費者に共感されず、売上が思うように伸びなかった事例も見受けられます。
成功のためには、現地の文化や価値観を十分に理解し、それに合わせたマーケティングのローカライズが欠かせません。たとえば、中国ではKOL(インフルエンサー)やライブコマースが主な販促手段として定着している一方、欧米ではストーリーテリングを重視した広告展開が好まれています。現地で主流となっているチャネルや施策を選定し、戦略に組み込むことで、商品やブランドの魅力を的確に伝えることが可能となります。
こうした取り組みを効果的に進めるには、現地の事情に精通した人材やパートナーと連携しながら、戦略を柔軟に調整していくことが重要です。グローバル市場で成果を出すためには、こうした地道な最適化が近道となります。
物流・カスタマーサポート体制の整備
越境ECにおいては、物流とカスタマーサポートの体制整備が信頼構築とリピーター獲得の鍵を握ります。たとえば、気候条件を無視した配送や不適切な梱包によって商品が劣化・破損すれば、ブランドへの信頼は大きく損なわれかねません。さらに、時差や言語の壁を配慮しないサポート体制では、利用者の満足を得るのは困難です。
このような事態を防ぐには、温度管理や通関対応を含む物流パートナーの適切な選定が求められます。あわせて、多言語に対応したチャットサポートの導入やFAQの充実も有効です。さらに、現地の休日や文化的背景を踏まえた運営体制を整えることで、トラブルの予防にもつながります。販売後の対応力を含めた一連のサポート体制は、越境ECの競争力を高める重要な要素といえるでしょう。
現地法規制・決済方法への対応
越境ECにおいては、販売国ごとの法規制や決済手段への対応が不可欠です。国によって関税制度や輸入禁止品目、表示義務などが異なり、それらを正確に把握していない場合、商品の没収や販売停止といった重大なトラブルを招くおそれがあります。
とくに化粧品や食品、医療関連の商品は規制が厳格であり、現地の専門家による監修や複数の確認体制を整える必要があります。また、現地ユーザーが普段から利用している決済方法に対応していないと、購入途中で離脱される原因になります。
たとえば、中国ではAlipayやWeChat Pay、欧米ではPayPalやクレジットカード決済が広く利用されています。こうした決済手段を導入することで、スムーズな購入体験につながります。加えて、現地の法令を順守しながら運用体制を構築することが、長期的な信頼と販売の安定につながるでしょう。
越境ECの失敗を防ぐには、事前の調査や戦略構築だけでなく、専門家の支援を受けることも効果的です。海外市場に詳しいコンサルティング会社を活用することで、より確実に成果へとつなげられます。
越境ECで成功するための重要なポイント

越境ECの成功には、単に商品を海外に届けるだけでは不十分です。文化や商習慣、流通インフラなど、国・地域ごとの違いを踏まえた具体的な戦略が求められます。ここでは、販売エリアの選定から価格戦略まで、実践的かつ効果的な取り組みを紹介します。
販売エリアの選定と絞り込み
越境ECで成功を収めるためには、販売エリアの慎重な選定と戦略的な絞り込みが不可欠です。日本国内で人気のある商品であっても、国や地域によって消費者の嗜好や競合状況は大きく異なります。たとえば、同じアジア圏であっても、中国と東南アジアでは文化的背景や購買行動に差があり、求められる商品にも違いが見られます。
そのため、やみくもに複数の国へ同時に展開するのではなく、まずはニーズが明確で、自社商品の優位性を発揮しやすい市場から着手することが現実的な選択といえます。市場規模や現地のECインフラ、競合の動向、法規制の内容などを多角的に分析し、成功の可能性が高いエリアにリソースを集中的に投下することで、リスクを抑えながら安定した成果につなげることができるでしょう。
現地パートナー・支援会社の活用
越境ECを円滑に展開するには、現地パートナーや支援会社を上手に活用することが効果的です。言語や文化、法律、商習慣が異なる海外市場では、自社だけで対応しようとすると、的確な判断や迅速な対応が難しくなる場合があります。
そのようなリスクを軽減するには、信頼できる現地支援会社や代行業者と連携することが有効です。豊富な実績を持つ企業やコンサルタントを選ぶことで、トラブルの発生を防ぎながらスムーズに事業を立ち上げることが可能です。現地ユーザー対応や法規制、物流の最適化といった多岐にわたる業務も、外部の専門的なサポートを得ることで柔軟に対応できます。
現地特化型サイトやモール活用
越境ECでは、自社サイトに加えて、現地で知名度の高いECモールや特化型プラットフォームを活用することで、市場へのスムーズな参入と販路の拡大が期待できます。たとえば中国なら「天猫国際(Tmall Global)」、アメリカでは「Amazon」、台湾では「Yahoo!奇摩購物中心」などが代表的な選択肢です。
こうした信頼性の高いプラットフォームを利用すれば、立ち上げ当初から一定の集客が見込めるうえ、決済や配送といったインフラが整っているため、運用にかかる負担も抑えられます。さらに、現地モールが実施するキャンペーンやセールに合わせて販促活動を展開することも可能です。これにより、ブランドの認知拡大につながり、売上向上の好機を生み出す効果も期待できます。
柔軟な価格戦略の実施
越境ECで成果を上げるためには、現地市場に適した価格戦略を立てることが不可欠です。日本と同じ価格で販売すると、現地の物価や競合製品と比較して割高と見なされ、売上の低迷につながるおそれがあります。さらに、為替の変動や流通コスト、関税の有無なども価格に大きな影響を与えるため、そうした要素を考慮した柔軟な設計が求められます。
たとえば、価格に敏感な地域では、初期段階で価格を抑えて参入のハードルを下げたうえで、一定のシェアを獲得してからブランド価値と連動させて価格を再調整する段階的な戦略が有効です。また、同じ商品であっても国ごとに価格を調整する「地域別プライシング」も視野に入れ、購買力や競合環境を踏まえて適正な価格を設定することが大切です。
まとめ:失敗事例から越境EC成功への道を探ろう
越境ECでは、文化や法律、物流、価格設定といった国や地域ごとの違いを見落とすことで、多くの失敗が生じています。ただし、こうした失敗事例は、戦略を見直すための重要な手がかりとなり得ます。本記事で紹介した通り、現地の文化に配慮し、法規制を正確に理解し、消費者のニーズに応じた対応をとることで、成功の可能性は大きく広がります。
まずは、自社が抱えるリスクや課題を洗い出し、優先順位をつけながら対策を講じる姿勢が求められます。過去の失敗に学ぶことで、より確実な前進が可能になります。着実な準備と柔軟な対応力が、越境ECでの成果につながる鍵となるでしょう。